運動前と運動後ではストレッチの考え方が違う

長い間、ケガの予防やパフォーマンスの向上を目的として運動の前後にはストレッチをするよう推奨されてきた。運動後に整理体操、クールダウンとして、ストレッチを行うことは有益である。しかし、現在、運動前のストレッチはやり方によってはパフォーマンスを低下させてしまうことが分かっている。運動前と運動後ではストレッチに対する考え方が違う。今回は、運動前後にはそれぞれどのような考え方でストレッチを行うべきなのかを説明していく。


ストレッチにはどのような効果があるのか

ストレッチ(Stretch)とは、英語で「伸びる」という意味がある。運動の際に行うストレッチは、筋肉を伸ばす体操として一般的に知られている。これは、運動を始める前の準備体操、運動を行った後の整理体操として必ずと言ってよいほど行う柔軟体操である。ストレッチには、以下に挙げられるような様々な効果が認められている。

・筋肉・腱・靭帯などのケガを予防する
・筋肉の緊張を和らげ、全身をリラックスさせる
・関節や筋肉が円滑に動かせるようになる
・関節可動域を広げることができる
・神経と筋肉の働きを活性化させて激しい運動や速い運動に身体が対応できるようになる
・筋肉のポンプ作用により血液循環がよくなる

ストレッチには大きく分けて2つの種類がある

静的ストレッチ(スタティック・ストレッチ)

一般的にストレッチと言うと、この静的ストレッチを指すことが多い。反動をつけたり痛みをこらえたりしないで、ゆっくりと筋肉を伸ばしていき、その伸ばした状態を維持するものである。筋肉を個別に伸ばすことができる。座ったり寝たりして安定した姿勢で行うことができて簡単である。また、全身のリラックスだけでなく、精神的なリラックス効果を得られる。

動的ストレッチ(ダイナミック・ストレッチ)

動きながら同時に数カ所の筋肉を伸ばすことができるストレッチである。例えば、サッカーのブラジル体操やラジオ体操、大リーグドジャースの前田健太投手が行っていることで知られるマエケン体操などが挙げられる。実際の運動で行う動きに近い動作でのストレッチになるため、競技動作に身体が対応しやすくなる。ケガの予防や競技動作に移行しやすい、筋肉の温度が早く上がるなどの効果が得られる。

ストレッチの考え方

運動前

準備体操として行うストレッチは、必ず動的ストレッチを選択する。以前は、ストレッチを運動前に行ったほうがパフォーマンスの向上やケガの予防につながると言われていたが、静的ストレッチに限っては悪影響があることが分かった。静的ストレッチは、筋線維の動員低下や剛性低下が起こることが認められている。分かりやすく言えば、筋肉の弾性エネルギー(バネ)が低下してしまう。これによって、短距離、長距離の運動全てにおいてパフォーマンスを低下させる恐れがある。当然、ケガにつながることも否定できない。運動前に静的ストレッチを行う場合は、少なくとも運動開始1時間前までには終了させておくことが好ましい。

運動後

整理体操、クールダウンとしては、静的・動的ストレッチのどちらを選択してもよい。静的ストレッチを行う場合は、運動後や日常生活の中のみである。運動後に、個別の筋肉に疲れや緊張などを感じる場合には、静的ストレッチが有効になる。静的・動的ストレッチの共通する効果は、運動後に必要なものをすべて含んでおり、好みやその日の身体状態などで選択してよい。

ストレッチを行う上での注意点(静的・動的ストレッチ共通)

いきなりストレッチを行わない

事前にウォーキングやジョギングなどを行って、身体を温めて筋肉の温度を上げることが必要である。冬期などの筋肉が冷えている場合は、柔軟性が低下しているために、いきなりストレッチを行うとケガをする危険性が高い。運動後や日常生活の中での場合は、入浴後などに行うと筋肉の温度が上がっているため効果的である。

できるだけ反動をつけずゆっくりと伸ばす

筋肉には、反動をつけると反射で逆に収縮しようとする性質がある。そのため、特に静的ストレッチの場合は、反動をつけるのは厳禁である。動的ストレッチの場合は、動きを伴うために反動がつきやすいが、できる限り反動を少なくするよう注意する。

強い痛みを感じない範囲で行う

筋肉が適度に伸びる痛みであれば問題ないが、強い痛みを感じるほどになると伸ばしすぎである。静的ストレッチの場合は、筋肉を伸ばした状態で15~30秒間保つ。短い時間では、効果が得られないため注意する。

息を止めずに自然な呼吸をする

息が止まってしまうほど伸ばすのは伸ばしすぎである。適度に呼吸することによって、血圧・心拍数を減らすことができ身体の緊張を和らげることもできる。静的ストレッチの場合は、息を吐きながら筋肉を伸ばすと効果を得やすくなる。

伸ばす筋肉を意識する

目的としている筋肉を常に意識して行うとストレッチの効果だけでなく、神経と筋肉の働きが円滑になる。関節可動域には、個人差があるため同じ姿勢をしていても目的としている筋肉が伸びる人と伸びない人がいる。そのためにも筋肉への意識は大切になる。

正しい姿勢・正しい動きで行う

無理な姿勢や間違った姿勢でストレッチを行えば、ケガの危険性が高くなる。また、間違った動きで行うことも同様に危険である。可能であれば、専門家などに指導をしてもらうことが好ましい。難しければ鏡を見ながら行うなど、ストレッチ動作を確認しながら行うとよい。

簡単なものから難しいものへ段階的に行う

最初から難しいストレッチを行うのはケガをする危険性が高い。簡単な方法から始めていき、少しずつ筋肉を伸ばしていく。同じ姿勢であっても始めは楽に行って、次にもう少し強く伸ばすといった2段階で行うことも一つの方法である。

そのほかのストレッチ

動的ストレッチに含まれるもので、バリスティック・ストレッチがある。これは、脱力状態で反動をつけることによって筋肉を伸ばす方法のストレッチである。ポイントは、脱力することと反動をつけること。例えば、長座位で前屈して両側のハムストリングスをストレッチする。その際に反動をつけなければ静的ストレッチとなるが、そこで反動をつけながら行うとバリスティック・ストレッチとなる。この方法は、筋肉に損傷がある場合などでは絶対に行ってはならない。

ペア・ストレッチ

2人ペアとなり、1人では伸ばしきれない筋肉に対して行うストレッチである。筋肉の伸びをしっかりと引き出すことができるため、より柔軟性を獲得することができる。最近では、ストレッチ専門店も登場しており、ここでは、ペア・ストレッチを専門家に行ってもらうことができる。専門家にアドバイスを受けることもできるメリットがある。日常の身体のケアとして、整体やマッサージだけでなくストレッチを受けることも健康管理には大切な選択肢となる。

PNF(固有受容神経筋促通法)ストレッチ

ストレッチは、元来、神経筋系のリハビリテーションプログラムの一部として、筋肉の緊張や活動が増加した筋肉をゆるめるために考案されたものである。PNFストレッチは、筋肉の柔軟性を高める方法としてスポーツ選手のコンディショニングやリハビリテーションに用いられている。PNFは、資格を持った専門家(医師や理学療法士など)に行ってもらうことが大切である。独学などで行うにはケガをする危険性が高いため、あまりおすすめはしない。

まとめ

運動前と運動後のストレッチに対する考え方について説明してきた。重要なポイントとしては、運動前に静的ストレッチは行わないことである。ただし、運動開始1時間以上前にストレッチが終了するのであれば行っても構わない。その点を注意できれば、運動前・運動後・日常生活どのような場面であれ、どのストレッチ方法を選択しても問題はない。注意点を十分に守って行うことが大切である。様々な場面で、ご自身にあったストレッチ方法を見つけ、取り入れてみてはいかがだろうか。